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Updated 2021.08.02

写真家、銭湯「松の湯」店主 | 黒﨑 宇伸(くろさき たかのぶ)


松の湯3代目、写真家になる


#写真家 #photographer  #銭湯店主

松の湯3代目、写真家になる

Profile|Takanobu Kurosaki

写真家。そして魚津の銭湯「平成松の湯」店主。大手光学機械メーカーを経て、スキューバダイビングインストラクターとなり、世界中の海に潜り水中写真を撮影する。その後、実家の銭湯を経営するため魚津に帰郷。 現在は富山の風景を撮影し、世界に向けて発信している。国内フォトコンテスト最高位は数知れず。2020年には世界的な写真コンテストの最終選考に選ばれ、アマチュア写真家ながら海外でも高く評価される。

2020年、英国グリニッジ天文台が主催する世界最大級の天文写真コンテストの最終選考に、一人の日本人の名が挙がった。その名は、黒﨑 宇伸(くろさき たかのぶ)さん。
地元・富山の風景を切り取った1枚が優秀作品に選ばれ、日本人として歴代2人目という快挙を成し遂げた。
他にも、国内外のさまざまな写真コンクールで入賞を重ねている写真家だが、その一方で、日中は家業である銭湯を経営。

“風呂屋”の息子に生まれながら、なぜ写真家に? 
地元富山を撮った美しい写真作品を紹介しながら、その “ダブル・フェイス” の謎をひも解く。

ー 七色剣岳 ー
夕立で剣岳に掛かる虹。自宅リビングから。地元に居るからこそ撮影機会に恵まれる情景のひとつだ。

富山ではないどこかへ

電鉄魚津の高架沿線にある銭湯「平成松の湯」。昭和初期から続く老舗だが、平成の時代に建て替え、近代的な外観のビルになっている。
この銭湯で3代目店主をつとめる黒﨑さんには、番台でお客さんを迎える一方、写真家としてのもう一つの顔がある。彼がレンズを通して表現する世界は、たくさんの人を魅了している。

「写真家というと、人はプロ、アマとに分けたがるけれど、自分は職業写真家というよりアーティストでありたい。後世に残る写真を、1点でもいい。僕の写真を気に入ってくれる人がいたら良いなと思っています」

ー 牙をむく洞杉(ドウスギ/魚津) ー
雪を被った洞杉。溶けた雪は氷柱となり牙をむく。強大な岩を飲み込んでいるようだ。

今でこそ富山の美しい風景を撮影しては世界に発信しているが、始まりは、子どもの頃に感じた富山に対する田舎コンプレックスだった。

「いとこがみんな東京にいて、魚津が実家なのでたまに遊びにくるんです。すると何かいろんな格差を感じてしまって。風呂屋もやりたく無くて。両親は盆正月も関係なく、四六時中商売をしていますから。定休日でさえ親父はどこかを直してたりして…。だから遊びに行くときはいつも一人でした」

高等専門学校を卒業後、なんでもいいからサラリーマンになりたい、と東京の企業に就職するも、富山の勤務地に配属され、意気消沈。2年で辞めた。
このまま富山にいたら、なし崩しで家業に縛られてしまう危機感。

「とにかく富山とは正反対のところに行きたかったんです。冬の日本海の景色とかも大嫌いでした。トロピカルな海が見えるところで生活したい、どうせ一生過ごすなら、オーストラリアとか。椰子の木が生えてるあんなところがいいなって。無い物ねだりですね」

南の島に行きたい!
若さと勢いに身を任せ「これならいける!」と選んだ職が、スキューバダイビングのインストラクターだった。

ー 煙突掃除 ー (スマホで自撮り)
生まれる前からある銭湯の煙突。潜って煤払い。
ー eyes ー (ごく普通の魚津の海の生物より1)
砂浜に潜むクサフグ。オレンジの縁取りが印象的な目。黒目はライトを当てると青く輝く。
地元の海にもカワイイのがいるのだ!

海中の景色に魅せられて

東京のダイビングショップで働きながら、1年かけてインストラクターに。当初はダイビングを面白いと感じなかったという。

「仕事としてダイビングを捉えているんで、レジャーという感覚はなかったんです。インストラクターになると、お客さんが事故に合わないようにとか、管理にばかり目が行くので、人ばかり見てるんですよね」

しかし、インストラクターとして呼び寄せられたサイパンで、その価値観は一変する。

「サイパンに行ってすぐに仕事ができるわけではありませんでした。先輩の後を金魚の糞みたいにくっついて潜ってたんですけど、その時初めて人の面倒を見なくて良い立場で潜ったんです。そしたらいろんなものが見えてきて。魚もいるし、海も青いし。ちょっと面白いかもしれないな、と」

人間相手ではない、海中の生きものたちを相手にダイブする。たちまち虜になり、海に潜っては写真を撮るうちにやがて、いろんな海の写真を撮ってみたい、という欲が大きくなっていった。
そして、ダイビングショップをやめ、カメラ片手に世界中の海を旅するようになる。
黒﨑さん、25歳の頃。これがカメラとの最初の出会いである。

ー eyeline ー (ごく普通の魚津の海の生物より2)
目の縞模倣が印象的なナベカ。わざわざ飛行機に乗らなくても、景色はどこにでもある。

「潜りに行くお金がなくなると、スキー場で3ヶ月間パトロールのバイトで山に缶詰。スキーシーズンが終わったら、飛行機に乗ってあちこち行って写真を撮って…という生活をしていました。写真で食べて行こう、もしくはダイビングショップみたいなことをどこかでできたら良いなと思い始めていたんです…が、そうこうしている時に親父が死んでしまって」

父の、突然の死。
黒﨑さんは、それまで漠然と思い描いていた夢を封印し、富山に帰郷。敢えなく家業の銭湯を継ぐこととなった。

ー 赤い稲妻
魚津・桃山運動公園に建つ赤く強大なモニュメント。稲妻のような造形の背後に稲妻が光った。

事故、そして見つけた “ここ” にある景色

帰郷してから、すっかり写真とは縁遠くなっていたある日。
黒﨑さんはバイクでの走行中にダンプに轢かれる大事故に遭う。幸い一命を取り留めたが、足に重傷を負い、一年間の入院を余儀なくされた。
金沢での入院中はリハビリのため、とにかく歩くように言われたが、病院の中を歩いていてもつまらない。
それからは、こっそり病院を抜け出して金沢の街を徘徊し、当時書いていたブログのネタにと、携帯電話のカメラで風景を撮りはじめた。
この出来事をきっかけに、自身の中で何かが変わっていく。

「もうちょっと、ちゃんとしたカメラが欲しいなと思いはじめて、コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)を1個買いました。それが陸上の写真を撮るきっかけです。それまで歩いて写真を撮ることが無かったので、今まで見えてこなかったものに目がいくようになるんです。結構面白いな、みたいな感じで」

半年で5回もの手術を受け、回復に費やす時間のもどかしさの中、入院中の病室で聞いた花火の音に、たまらない疎外感を感じたこともあった。畜生、絶対撮りに行ってやる!と励みにした。
退院後もリハビリを兼ねた写真撮影を続けた。2年かかった松葉杖生活の間も、小脇に三脚を抱えて撮影に向かった。
昼間は銭湯を営み、仕事を終えて深夜になると近場の撮影スポットへ足を運ぶ。
撮る作品のほとんどが、静穏で神秘的な夜色をしているのはそのためだ。
こうして、黒﨑さんにとって地元を撮影することが大きな意味を持つようになっていった。

ー 寒中水行 ー
寒中水行をする修行僧。地元を知る中で、こうして人を撮る機会も。

身近にある “美しい” を世界へ

現在、黒﨑さんは富山という“ 場所 ”にこだわって写真を撮影している。
それは自らが富山にいることの確認であるのだという。

「肯定したいんでしょうね、富山にいるってことを。どうにもならないなら、今、ここにいる事を楽しもう!と。あまりにも富山を知らなさすぎる、ということもありますが」

長く富山に背を向けていた分、写真を撮ることで気付く魅力も多い。

「知らないと写真って撮れない、と思うんです。人も風景も、撮影しようと思ったらどういう場所なんだろうとか、どういう時間帯だったら綺麗なんだろうとか、いろいろ調べるんですが、その作業が面白い。場所を調べることは地元を知ることにもつながる。ここにいるからこそ撮れる写真、いなきゃ撮れない写真。
要は良い景色なんて、どこにでもあるってことです。世界中を旅する写真家も、一箇所でずっと写真を撮るのも、同じ写真家なんです」

ー 首のストレッチ ー
銭湯で毎週木曜日に開催している「いきいき百歳体操」での1コマ。表情がなんとも言えない。

昔嫌いだった富山。
今は、無いものを「いいなぁ」と思うより、「いいだろう!」と言える人生を送りたい。
さまざまな経験を積み重ねて、生まれ育った土地で新たな世界を築き上げる。
そこには、 “写真家・黒﨑 宇伸 ”が観る景色が、無限大に拡がっているのだろう。

今夜もまた。
黒﨑さんは、銭湯の番台で「ありがとう」と礼を言い帰っていくお客さんを見送ったあと、カメラとともに夜の闇へと向かっていく。
まだ見ぬ富山の “美しい” と出会うために。

ー 月夜の円筒分水槽 (魚津市東山地区/国登録有形文化財)ー
月夜は格別。月暈と円筒分水槽がシンクロする。

実は黒﨑さん…

バイク歴は30年以上!乗り継いだのは30台!!

バイク乗りでもある黒﨑さん。足がもげそうな大事故に遭いながら、懲りずに今も古いバイクとともに暮らしている。銭湯経営の合間をぬっては近場へのんびりとバイクを走らせる。バイク歴は長く、学生のころから。峠ライダー時代を経て、歳を重ねるごとにデザインが美しいイタリアンバイクを好むように。これまで所有したバイクの半数はオールドイタリアンで、現在の相棒は自身と同い年の1968年製 DUCATI スクランブラー350。 (写真/魚津市・天神山ガーデンにて)

多趣味で凝り性、でも一番好きなのは…?

趣味はバイクだけかと思いきや、他にもあれこれと造詣が深い。意外なところではクラシック。モーツァルトは同じ楽曲で指揮者による解釈の違いを聴き比べるのが楽しいと言うから、かなりの上級者である。かと思えばウィスキー通の一面も。夜な夜な馴染みのBARを訪れては大人の時間を楽しむ。SNSには、年代物のウィスキーのボトルの写真も時々登場する。 で、結局のところ何が一番?と伺うと「南の島でのんびりダイビング、夜はBARでヨイヨイが最高かな」、だそうだ。

見つめる先は海の向こう

そう言えばSNS全盛の中、さほど精力的に作品を発信していない。理由を問うと、写真の師と仰ぐ方を納得させる作品がまだ無いから、とのこと。「いろいろ考えています。海外に向けてすごいの出してやろうと。見てろよ!って思ってる(笑)」。 自身を「基本は銭湯のおやじです。アマチュア写真家です」と柔らかく笑いながら、実に志は高い。地元に居てもピントは常に海を越えたところにある人物なのだ。 (写真/英国グリニッジ天文台主催天文写真コンテスト2020出展作)

魚津の銭湯「平成松の湯」へ!
スポット情報
 
魚津の銭湯「平成松の湯」へ!
魚津へ訪れた際はぜひ黒﨑さんの営む「平成松の湯」へ。 ロビーには、黒﨑さんの作品が何点も飾られているので、写真が気になる人は要チェックだ。 銭湯は全館バリアフリー。浴槽温度は好みに応じて3種類。45度、42度、38度とあり、他にもジェットバス、電気風呂、人工温泉、水風呂、サウナと設備が整っている。浴室の背景は富士山ではなく「剣岳」というところが富山らしい。先代の同級生画家、清水遠流氏の作品。 入浴料:大人440円 中人(6才以上12才未満)140円 小人(6才未満)60円

平成 松の湯 店主 / 写真家 黒﨑 宇伸(くろさき たかのぶ)

場所 富山県魚津市新金屋1-4-2
TEL/FAX TEL 0765-22-1286
about 水に溶かしたイオンの働きで血行が良くなる『電子水』を湯のみならず全てに使用して好評。2Fにある浴槽へはエレベーターあり。全館バリアフリー。
月曜定休日。PM1:00〜PM11:00
入浴料:大人440円 中人(6才以上12才未満)140円 小人(6才未満)60円
Web/SNS

https://www.instagram.com/takanobu_kurosaki/

黒﨑さんとは、お会いする以前から人伝に聞いた情報が盛りだくさん過ぎて、「本当にひと一人のことなのか?」ご本人から語っていただくまでは伝説のように感じていた。そして対面して…結局さらに情報が追加された。追加情報の一部を(取材側の主観的なフィルターを通して)申し上げると 『雰囲気がダンディ』『車もこだわりがある』『ウイスキーについても通暁している』。黒﨑さんを既にご存知の方も、これからだという方も、この他に追加したいことがあるかと思うので、是非、教えていだだきたい。

取材・ライター アベトモミ(ホリデザイン制作室・グラフィックデザイナー)、柿本遊季
撮影      黒﨑 宇伸
取材日     2020.12.23

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