Updated 2021.06.22
《埋没林博物館 》蜃気楼専門学芸員 | 佐藤 真樹 (さとう まさき)
蜃気楼のことなら佐藤さんに聞きに行こう!
#蜃気楼 #蜃気楼専門学芸員 #埋没林博物館
Profile|Masaki Sato
気象庁勤務を経て、2018年より、日本で唯一の “蜃気楼の調査・研究・教育普及活動を専門にする” 学芸員として魚津埋没林博物館へ。未だ明らかにされていない蜃気楼出現のメカニズムを解明するために日々研究を重ねている。「蜃気楼のことなら佐藤に聞け!」と自他共に認める蜃気楼博士になることが目下の目標。
「一日中蜃気楼を見ているわけではないです(笑)。本当は見ていたいですけど」
日本海を臨む富山県魚津市の海岸沿いに、一際目を惹く、白くて巨大な三角すい形の建物がある。
魚津の観光スポットのひとつ、「特別天然記念物 魚津埋没林博物館」だ。館内では昭和5年(1930)に魚津で発見され国の特別天然記念物にも指定されている埋没林の展示や、蜃気楼の基本を学びその仕組みを体験できるコーナー、富山湾を一望できる展望台など、魚津の自然とその不思議を様々な角度から味わうことができる。
佐藤真樹さんは、2018年に国内で唯一といわれる“蜃気楼専門の学芸員”としてこの博物館へやってきた。
魚津は、他の地域と比べて特別蜃気楼の出現頻度が高いわけではないらしい。
それでもこの地が “蜃気楼の街” としてその名を知られているのは、地理的条件の良さにある。
「魚津から見ると富山市の方角には呉羽山など目立つ目標物があるので、変化が分かりやすいんです。
蜃気楼を見るにはとてもいい位置にある街だと思います」
今では街のスローガンになるほど、すっかり地域の名物として定着した蜃気楼だが、その調査の歴史はおよそ100年にのぼる。だが、未だに科学的な理由づけができていないのだという。
「今あるデータはあくまで魚津ならではのもので、国内であっても違う場所で観測されたデータは転用できません。魚津には他の地域と違う気象循環があるはずです」
その固有の条件を解明するため、日々蜃気楼観測を行いながら、新たな研究方法を考えては実際に調査を行う。
例えば海岸沿いにある遊園地・ミラージュランドの観覧車に温度計を設置し蜃気楼の出現と気温の関係を調べたり、ドローンを飛ばして観測するなど試行錯誤が続く。その研究過程は、地道な作業だ。
「蜃気楼がどのような時に出現するのかという条件は、個々には掴んでいますが、その条件が当てはまらない蜃気楼も多くあります。過去からの記録も含め、それらの観測データの整理を自分の代でしなければならないと思っています。より多くの事例を解析して蜃気楼の発生を高い確率で予測できるようになるのが目標です」
佐藤さんが蜃気楼に関心を持ったのは魚津市内の高校に通い始めた頃のこと。しかし当時から蜃気楼研究を志していたわけではなかった。
「子供の頃は石が好きで、ポケットを採取した石でパンパンにするような子でした。将来は石に関わるような仕事がしたいと思っていました。石への執着心はかなりありましたね」
少年時代からの石への興味と研究職への憧れを胸に、大学では地質学を専攻。将来は地質を調査して解析するような仕事に就く事を目指していた。
地質への興味から学芸員に憧れるも、当時は「なり方が分からなかった」と断念。大学卒業後は「現場に行って火山調査ができる」という仕事に惹かれ気象庁に入庁した。
しかし気象庁での活動は、思い描いていた‘研究職’という働き方とは大きく異なっていたという。
「火山に関わる仕事を希望して気象庁に入ったものの、配属のたびに調査研究対象が変わることにストレスを感じ、心が折れそうになっていました」
自分の希望する分野に集中して研究ができない事に息苦しさを感じていたとき、目に止まったのが、埋没林博物館の蜃気楼専門の学芸員募集だった。
「気象庁という大きな組織から抜けて、蜃気楼研究だけを極めることはすごく魅力的に見えました。1つのことを突き詰めてみたいと感じました」
こうして佐藤さんは8年間務めた気象庁を辞め、日本でただ一人の蜃気楼専門の学芸員として魚津埋没林博物館に赴任することとなる。
「虹や蜃気楼のような目で見てわかる気象現象は昔から好きでしたので、そこに携われることは凄く嬉しいです。気象現象の多くは、例えば『温度がここで変わっているよ』と言っても目には見えません。でも蜃気楼は目で見てわかる。魅惑的だな、直感的に人に面白さが伝わりやすいだろうな、と感じています」
気象とは大気中で起こる全ての現象のことを指す。その中でも蜃気楼は「見える化された気象現象」の1つだ。必ず⾒えるわけではないレアさが多くの⼈々を虜にしているが、佐藤さんによって今後さらに科学的知⾒に基づ いた発信がなされていくのだろう。
1つの研究対象についてとことん追求すること。
携わる分野が何であれこれだけは譲れない、佐藤さんの研究ポリシーである。
だから蜃気楼への探究心にゴールはない。
「蜃気楼研究は今できる最善を尽くし続けて行くしかありません。言い換えれば研究の可能性を広げて行く。その過程で研究者としての自分と関わりたいと思ってくれる人を増やしていきたいです。今はそんな‘蜃気楼博士’になることも目標の一つです」
「蜃気楼のことは佐藤に聞けばいい」と思ってもらえること。
いつまでも研究への情熱を持ち続けること。
それこそが研究者としての佐藤さんの理想像だ。
さらに経験値の1つとしてずっと望んでいることが、南極観測隊として活動することである。気象庁時代にも高層気象観測を行うため南極観測船「しらせ」への乗船を希望したが、叶わなかった。今度は研究者として、蜃気楼のメッカである南極に挑戦しようとしている。
「観測船に乗って、蜃気楼観測など蜃気楼研究者ならではの研究をしに行きたいなと思っています」
地球科学の探究に人生をかける男。彼は今日も果てなき蜃気楼の世界に挑み続ける。
世界でも珍しい埋没林の水中展示
港工事の際、約2,000年前の姿のまま偶然発見された魚津の埋没林。立山連峰を源にした綺麗で豊富な地下水に守られ、海水で朽ちることなく今に残ったと考えられている。この博物館が特殊なのは、樹根を館内へ移動展示したのではなく、発見された場所、状態を維持したまま、その上に博物館を建てた点だ。深海のような深い青の水中でジッと動かない巨大な樹根群は、詳しいウンチクを抜きにしても存在に圧倒される。その異形のせいか国内外のSNSなどを「なんかコワイ」と時々ざわつかせている。
地球科学の入り口へようこそ!
館内では魚津市を含む富山県東部一帯の大地の歴史を紹介するコーナーも。魚津の山間部で発見された約1500万年前に生息したとされる巨大なサメ「メガロドン」の歯の化石展示は、子どもたちにも大人気!
魚津埋没林館では、地球科学の面白さをたくさんの人たちに知ってもらうための学習会や野外講座、講演会などを開催している。地質学や気象の知識も豊富な佐藤学芸員にもぜひ会いに行ってみて!イベント企画は随時WebやSNSで発信中。
蜃気楼ライブカメラで観測しよう!
魚津から見える蜃気楼は24時間365日、ライブカメラを設置してYouTubeで配信中。
なかなかタイミング良く現地で観測することは難しい蜃気楼を全国のご自宅から観測が可能!ライブカメラは魚津から見て西の射水市方向、富山市方向、東の黒部市方向の3方向を定点観測。
しんきろうライブカメラはこちら
魚津埋没林博物館
場所 | 富山県魚津市釈迦堂814 |
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TEL/FAX | TEL 0765-22-1049 FAX 0765-23-9105 |
about | 魚津埋没林博物館は“埋没林”、“蜃気楼”という自然の神秘に触れることができる博物館。国の特別天然記念物の埋没林をその場で保存、展示している。 館内ハイビジョンホールでは大画面に映し出される迫力の蜃気楼映像で出現の仕組みを解説。また洞杉など魚津の美しい自然風景も垣間見ることが出来る。 |
Web/SNS |
https://www.city.uozu.toyama.jp/nekkolnd/
https://www.facebook.com/uozuburiedforestmuseum/ https://www.instagram.com/uozuburiedforestmuseum/ しんきろうライブカメラサイトのご案内 |
佐藤さんの第一印象は、優しいお兄さん。子ども向けの番組に出てくる、柔和で爽やかな好青年。それが取材をはじめると、一転。生い立ちから今までの経緯、そして蜃気楼について聞いていくうちに、熱意と執念がひしひしと感じられて、あっ、爽やかだけじゃない粘りもある、と気づく。埋没林館の爽やかネットリ先生…いつの間にか惹き込まれるこのネットリ感が、世にも珍しい「蜃気楼専門の研究者」たる所以なのか(?)魚津埋没林館を訪れる際は、展示をご覧いただくのはもちろんのこと、ぜひ佐藤さんの蜃気楼談話も聴いていただきたい。
取材・ライター アベトモミ(ホリデザイン制作室・グラフィックデザイナー)、柿本遊季
撮影 鬼塚 仁奈(tete studio works)
取材日 2021.1.19
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