home UO! topics この場所で紡いでゆく “青” の情景

  
  

Updated 2023.07.18

《 画家/アーティスト 》関口 彩 (せきぐち あや)


この場所で紡いでゆく “青” の情景


#画家  #アーティスト #ブルーシリーズ

この場所で紡いでゆく “青” の情景

Profile|Aya Sekiguchi

魚津市出身。富山の自然からインスピレーションを得て、“青” と “白” で描く “ブルーシリーズ” を制作している。繊細かつしなやかな線で描かれる作品の中でも、石や植物、猫をモチーフにしたものが人気。幼少期からの鮮明な記憶と豊かな感性、動植物への愛情が現在の作風に表れていると言える。会社員として働く傍ら、2013年に独学で絵の制作活動を始め、2017年からは画業に専念。全国各地で数々の個展やグループ展を開催。2021年に国際アートフェアUNKNOWN ASIAにて中居大輔賞受賞。

ビエンナーレTOYAMA 2023 出展作品。初の大型2面一双の大作は、まさに現代の花鳥風月図。(展示期間終了)

富山の自然から生まれた “ブルーシリーズ”

魚津で生まれ育ち、幼い頃から身近にある自然と触れ合ってきた関口さん。植物や動物が好きで、子どもの頃はどんぐり拾いや貝殻拾い、タンポポ摘みに夢中になり、テレビ番組「ムツゴロウ王国」が好きで獣医になりたいと思っていました。

「私の家は街なかにあるんですけど、山が見え、海も近い、自然が豊かなところです。子どもの頃は意識していなかったものの、富山県民として、肌に触る空気で季節の移ろいを感じられる、四季が豊かな場所で育ったと思います。それは意外と普通のことじゃなくて、特別なことかもしれないですね」
現在、関口さんがメインテーマとしているのは、“青” を基調にして動植物を描く “ブルーシリーズ”。きっかけは、2019年5月、東京で開かれた新人登竜門のコンテストでした。

コンテスト応募にあたり、初めてコンセプトを作ることになって「青い絵が描きたい」と思った関口さん。そこに自分なりの意味付けをするため、幼少期に遡って自分の中の “棚卸し” をしました。
その時、いつも見ていた富山の自然から感じる色が “青” だと気付きます。すぐそばに広がる深い海と、3,000メートル級の山々の連なりから受け取る富山の色でした。

身の回りにある自然からインスピレーションを受けとり、絵筆に下ろすのが関口さんの日常。

「年長から小学生の間は父の仕事の都合で県外へ引っ越すことが多く、富山と行ったり来たり。その経験も大きく関係していて、他県から富山に帰ってきた時のイメージが “青” だったんです。富山は空気がきりっと冷たくて山が青い。他県のポコポコした低い山は “縁” なんですよね。
また、私が描いた絵には必ず、自分が好きな “動植物” がモチーフとして入っているな、と」

コンテストで審査を通り、東京の表参道で展示された作品は、訪れた人々から「青が素晴らしい」「美しい」と好評でした。観た人から「癒される」という感想を寄せられる機会が多かったこともあり、ここから、動植物をモチーフとして青を基調に白く細かい点や線で描くブルーシリーズが始まりました。

「今まで自分の作品で『綺麗』や『可愛い』はあっても、『癒される』はそこまで頻繁に聞いた言葉ではなくて。『あ、癒されるんだ。そういう風に思っていただけるなら、より深めたい。しばらく描いてみよう』と思いました」

富山の自然を愛し、見つめてきた、関口さんならではの視点で描くブルーシリーズ。柔らかな線で緻密に描かれる青と白のコントラストが美しく、静寂の中に優しく穏やかな心を感じることができます。

「私が見ている富山の色はこんな色」 ー 主に使うのはプルシアンブルー、ビリジアン、白のアクリルガッシュの3色。

経験知を活かして実現した画家への転身

関口さんは、これまでの仕事で得てきた多様な経験を、現在のアーティスト活動に活かしています。

「テレビ局と新聞社に勤めていた経験があり、リサーチや宣伝の方法を学ぶことができました。事務作業や経理の経験も今に活かされています。そういうことを知らずに作家活動を始める人もたくさんいるので、会社員をやっていて良かったと思います」

会社員時代はアルバイトも含めて13年。働きながら2013年に独学で絵の制作活動を始め、絵を仕事にするための準備を進めました。2015年に初めて富山市のギャラリー「マチノス」で個展を開催し、以降はアートイベントに出ることも増えていきました。

「作家には、企画立案やセルフプロデュースができない方が圧倒的に多いんです。個展をやるにしても、どこを借りてどういう企画でやるとか分からず、それで辞めてしまう作家さんが多数いるんですよね。でも、私は会社員時代の現場経験があるのでそれができる。それに、短期間に個展を人より多くコンスタントに開催することもできました」

2019年、コンテスト会場にてライブペイントでのひとコマ。少しずつ自身の方向性が見えかけていた頃。

2017年にはテレビ局を辞め、元の職場で単発の仕事を手伝いながら、イラストレーターとして仕事をする日々。会社員の経験が長かったため、当初は依頼されるものを “社員の立場” で作ることと “作家として” 作ることに大きな違いはないと考えていましたが、実際は、お客様とのビジネスライクなやり取りは楽ではありませんでした。

「クライアントワーク(お客様からの依頼)で行うイラストやデザインの仕事は、私にとって非常に苦しいものでした。例えばサンプルを3パターン提出する際、自分の心の中でイチオシはAとかBなんですけど、お客様はCを選ばれる。そんな風にお客様と考え方の相違が大きく、うまくいかないことが何度かあった時に『自分に合わないんじゃないか』と思い始め、すごく考えて画家に転向すると決めました」

それまでの仕事をすべて断り、イラストレーターではなく画家として生きていこうと決心したのが2019年でした。

アトリエでもある自室には、地元の河原や海岸で一目惚れした植物や石、流木などが常に入れ替わり立ち替わり存在する。

「それはそれで大変なんですよね。誰かからご要望をいただいて描くのと、自分の中から湧き上がらせて描くのは、感覚が正反対のことなので。最初はアイデアが出てこなくて…。でも展示会の日程を決めると描かざるを得ない。すごく苦しかったです」

画家として創造することの難しさに直面した関口さんが取った行動は、やはり自分が好きなことの “棚卸し” でした。

「私の好きなのって何だっけ? 子どもの頃って何が好きだったかな。何が嫌で、何につまずき、何をやっていれば楽なんだっけ? 全部文字化して、好きなことだけを少しずつやるようにしました。例えば行ける時は海とか山にちょっとでも行ってみるとか。オーダーも極力お受けせず、自分の好きなものに集中しているうちに段々手が慣れてきて、描きたいものが出てくるスピードが速くなり、詰まらずに描けるようになってきました」

目に映る世界は自分で変えられる

好きなものについて考えることは、関口さんにとって今では日常の一場面になっています。しかし、そんな自分らしい生き方が見つかるまでは、人生の中で長い葛藤の時間がありました。

「子どもの頃からリーダーを任されることが多くて、人前に出て何百人の全校生徒の前で喋るのも平気だったんです。先生や周りから頼られることは自分にとって普通だと思ってたんですけど、大人になって過去を分析すると、すごく辛かったんですね。無理して溜まったストレスから体調不良になり、中3の終わり頃から成績が下がり始めました」

関口さんは中学、高校と美術部でしたが、高校では学校に行かない日も出てきたことで、進路にも影響しました。東京の美大予備校へ入ったものの、体調のこともあり、志半ばで富山に帰ってくることになったのです。

「それ以降ずっと富山です。ひと昔前は、アートって特に東京に出なきゃ売れなかったんです。だから東京に戻りたかったのだけど、当時は高校卒業以降のブランクで社会的に自分を示すものが何もなく、うまくやっていく自信を無くしていました。この重々しい曇天とそびえ立つ立山連峰が、私にとっては忌々しい大きな壁に見えていましたね。
だけど今は、ネットだけで世界からでも見つけてもらえる時代。例えば『日本の富山ってどこだ? へ〜、富山の景色ってこうなのか!』と思ってもらえるなど、世界から見ると地方にいることが強みになります。」

関口さんがそんな思考になれたのは、「Instagramのおかげ」だと言います。創作活動を続ける中で、自分の作品に想いを載せて富山から発信してきました。

「コロナ禍になって『何かして、自分を心地よい状態にしないと絵が描けない』と思った時、山に入って草を摘んだり山菜を採ってきたりすると、自分が癒されることに気付きました。子どもの頃から好きだった海での石拾いを数年前からまた始めていたんですけど、より海に行く回数も増えました。自分が癒されているものをそのまま絵にしてみようという想いを積み重ねてきたことで、ここには素敵な宝があると感じられるようになって。曇天でさえも、この気候や景色が身近にあるのは素晴らしいことだと思えるようになりました」

今の癒しアイテムは “石”。関口さんにとっての石拾いは「まるで宝探しのよう」なのだそう。

地方から発信するアートの可能性

関口さんがInstagramで発信している投稿に、

“ 私たちが見ている世界は一つではない。
人それぞれの視点があって、信じているものも違う。それを共有できるのがアートだと思います。”


という言葉があります。関口さんは、みんなが何気なく見ているものの美しさに気付き、その感動を伝えることが自分の役割だと話します。

「例えば立山連峰がくっきり美しいっていうのは誰でも見て、感じてると思うんですけど、もっと迫った山のディティールや木、海の石とかも、意識して見なければ分からない。私はいつもそれを見てるんですよね。そこから自分が美しいと思うものを拾い上げて絵にすることによって、より周囲が受け取りやすくなります。
私の作品を見て『美しい』って言われるけど、もとは砂浜に落ちてる石とかなんですよ。『私たちが住んでいるところは本当に美しいところなんだよ』っていうことを、絵を通して伝えたいと思っています」

同じものでも、観る人によって捉え方は異なります。
視界に入った景色を観察し、解像度を高くして視る。そんな関口さんのフィルターを通して表現されているからこそ、たくさんの人が癒され、心に温かいものが灯るような作品が生み出されるのです。

「やっぱり “光” や “癒し” など、見る方にとって何かしら指し示すものを伝えたいなって思っています。
そうするために、自分のあるべき姿もすごく考えます。もちろん聖人君子じゃないので良い面もあれば悪い面もあるわけですが、自分の中で消化して、どの部分を作品に表現するかが作家のスタイルでもあります。今は、自然(ニュートラル)な状態の私で癒しをお届けしたいって思っています」

関口さんが今、意識的にやっていることは、自分が不快になるものを目にしないこと。例えば、Twitterやテレビのニュース映像などで暴力的なもの・気分が落ち込むものを避ける、他人の悪口を言うような人とは付き合わないなど、目にするもの・感性を揺さぶるものを自分で決め、好きなものを突き詰めていくようにしています。
そのあり方は、アーティストとして、1人の人間として、人から憧れられる理想的なものだと言えます。

本日の “家に連れて帰るコ” はこのコに決定。

「近くの海で見つけた石を拾ってきて飾っておくんです。普段意識して見てるわけじゃないんですけど、ふと『きれいな色だな』とか、『綺麗な模様だな』とか思える。そういう、自然のままで素晴らしいものを描けたらいいなって思います。私はそれを地方から発信していきたいし、自分の後続の人たちにも伝えていきたいと思います」

地方に住み、地方から発信することをアイデンティティとしている関口さんに、今後、同じ道に進む人へメッセージをもらいました。

「美大に行っても行かなくても、残っていく人は本当に少ない世界です。大事なことは、自分が心地良いことを突き詰めること、信頼のおける友達をたくさん持っておくことですかね。
やっぱり私一人の力ではここまで来られなかったですし、社会と繋がりがあることで発信の仕方は増え、別事業とくっつけば拡大することもあります。自分の業界以外の世界も知り、出来る限り異業種のお友達も増やしておけばいいかなってすごく思います」

思うままに描く、そして解き放つ

関口さんが次に目指すのは、より感情の赴く方向へ進むことです。

「今描いている作品は具象ですけど、“抽象” に行きたいですね。まだちょっとデザインチックなところがあるから、より感覚的になりたい。もっと感情で描き、自分の壁を取っ払う作業をしていきたいです。
でもやっぱり、怖いですね。『それを描いて受け入れてもらえるのかな』とか、『今の絵を評価してくださる人がいるのに、違うことを始めたらどうなるんだろう』みたいな恐怖はありますけど、それが突破していかなきゃいけないところなのかな」

仕事をする上では、人から求められるものと自分が進みたい方向を一致させることがベスト。しかし、例えそれが異なっていても、殻を突き破っていくことで新しい自分を見つける一歩になるのではないか。関口さんの言葉から、そんな期待も感じます。

「私には、多くの方に私の絵を見て癒されて欲しいという願いがあります。そしてもう1つ、自分の “好き” を見つけて生きることを体現してみせたいという想いもあります。私もみんなと一緒で疲弊しながら働いていたのが、少しの思考の変換で、見ている世界を自分で変えられたので。
私も今、『自分はこうしなきゃ』っていう想いからどんどん取っ払われている最中ですが、『みんな本当はこうやって生きられるはずだよ。あなたも本当はそうしていいんだよ』『もっと自由に生きていいし、できないと思い込んでるのは自分なんだよ』っていうことを、自分の作品や生き方を通して伝えられたらいいなって思います。
私はアーティストだから、特に、次のアートを志す人たちに伝われば嬉しいです」

実は関口さん…

折々に登場する“棚卸し”とは?

インタビューで度々登場する「棚卸し」というキーワード。恐らく誰もが無意識のうちに行っているかもしれないその行為を、関口さんはこれまで「人生に手詰まりな時の特別儀式」よろしく意識的にやってきたようだ。自分自身から距離をおいて冷静に己を俯瞰し、言語化することで進むべき道筋の糸口を見つける手段。これぞ昨今よく耳にする“メタ認知”ではないか。 アーティストは直感的な人が多いイメージだが、時にロジカルに物事を捉えて使い分けることができる人なのだろう。

美しい曲線と調和

関口作品に癒されるというファンが多い。その魅力は、関口さんの代名詞とも言える“青”は言うまでもないが、それに加え、迷い無く伸びて美しいカーブを描くラインや絶妙な配置にもあるのではないだろうか。例えば、微かにチューニングの狂った楽器の音に心地悪さを感じる感覚と同じように、絵にもピタっと心に収まるモチーフの軌道があるのだとすると、まさに彼女の作品は、見ていて気持ちが良いのだ。その絶対的な安定性に、見る人の感情を沈静化して負の感情を開放する効果があるのかもしれない。

潔い制作スタイルのこと

大作を除き、ほとんどの作品は何日もかけずに一気に描き上げる。そして翌日以降に手を入れることは稀で、仕上げた作品に執着せず、すぐに次の作品へ気持ちを切り替えるのだそう。「完成」のタイミングを自分で決めることはクライアントワークをしない制作スタイルの特権のひとつではあるが、反面大きな責任と怖さもあるはず。ここ近年の作品から受ける優しいながらも凛とした空気は、それらすべてを自分で引き受けると決めた関口さんの覚悟が映し出されているようにも感じる。

関口彩さんのギャラリー
スポット情報
 
関口彩さんのギャラリー
動植物や石などの身近な対象をモチーフにしている関口さんの作品は、見る人にとても暖かく優しく寄り添ってくれます。ぜひ個展などで実際にその繊細なラインや色を受け止めてください。
関口さんの最新の活動情報はSNSにて発信中です。
また、オンラインギャラリーでもお買い求めいただけます。
https://www.instagram.com/ayarts/

画家 関口 彩(せきぐち あや)

about 作家へのご連絡はメールまで。
irodori822@gmail.com

【オンラインギャラリー/ショップ】
https://ayasekiguchi.thebase.in/
Web/SNS https://linktr.ee/ayarts


https://www.instagram.com/ayarts/

この記事の画像でも見ることができる “ブルーシリーズ” 。細部までずっと眺めて、関口さんの世界観に没入していきたくなります。8月の個展が楽しみですね。
関口さんの言葉からは、情報過多な現代社会を生きる私たちが自分の生き方を考える上で大切なヒントがたくさん詰まっているなと感じました。特に “棚卸し” は、自分と向き合う機会であり、自分を大切にするための時間を設ける意味でも重要なことだと思います。

私も10代の頃、立山連峰が外の世界を遮断する、出られない壁のように見えた時期がありました。今振り返ると、自分の心の中の生きづらさや息苦しさを山に投影していたように思います。それが、一度県外に出てみると、実は立山連峰に見守られていたことに気付きました。古くから山岳信仰の対象であり、現在も台風などの自然災害から守ってくれている存在…。視点が変わると捉え方が変わるのを体感しました。
関口さんの取材後、目に映る立山連峰の姿はより解像度が上がり、くっきりと存在感が増しています。

取材・ライター 古野 知晴 (VoiceFull代表、キャスター)
撮影      鬼塚 仁奈(tete studio works)
取材日     2022.12.13

Copyright © 2020 Uozu Tourism Association Co.,Ltd All rights reserved.